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「また一から出直したい」横峯さくら(36)が7年間の米挑戦に終止符
今後は日本ツアーに専念、母となっても“結果”を求める理由
今後は日本ツアーに専念、母となっても“結果”を求める理由
3月下旬、米女子ツアーのメジャー初戦となった「シェブロン選手権」の練習日。横峯さくら(36歳)は18ホールを回り終えたところで、口を開いた。
「先週、受理されたんですよ」
受理された、というのは横峯が2015年から保持してきた米ツアーの出場資格を辞退する申し出のこと。それは、通常の米ツアーの試合には出場できなくなることを意味していた。
昨年2月に長男を出産し、母となったことで日本を主戦場に戦うことはすでに決めていた。事実、昨年12月の国内女子ツアーの最終予選会に出場し、ツアー前半の出場権は掴みとっている。ただ、たくさんの苦労をしながら積み重ねてきたアメリカでの権利を手放すことは、それなりの覚悟が必要だっただろう。
淡々と話す様子から、すでに気持ちの整理はついているように見受けられたが、あまりにあっさりと伝えられたので、思わずその真意を聞き返した。すると横峯はこう答える。
「家族のことを考えた時、日本で永久シードを取りたいという気持ちが最優先になったので」
そして、少し言葉に力を込めながら「それに、コロナ禍で人生観が変わりましたから」と続けた。
米ツアーの仲間たちから「寂しい」
昔から子ども好きで「いつか自分の子どもが欲しい」と願っていたものの、国内外の遠征をこなしながら子育てをすることに躊躇する自分もいた。しかし、コロナ禍で米ツアーが一時期中断するなど、先の見えない時期を経験したことで、母となる決心がついた。そして、無事に息子を出産したことで、気持ちは自然と国内ツアーに傾いていった。
シェブロン選手権の期間中、米ツアーから離れることをアメリカで共に戦った選手たちに伝えると、「寂しい」「日本に行った時は会おうね」と温かい言葉をかけられたという。仲が良かった韓国のチョン・インジとは「韓国に行く時は一緒にご飯食べようね」と約束した。同じ舞台で戦い、一緒の時を過ごした仲間とは絆が築かれていた。
約7年間の米ツアー在籍中に優勝は叶わなかった。17年にはシード落ちも経験した。最高成績は18年のショップライトLPGAクラシックでの2位。心残りもあるに違いない。「アメリカでは、ずっとゴルフの状態が悪かったので……」とやりきった感じはないと苦笑する。
だから、シェブロン選手権では優勝に向けてしっかりと調整を重ねてきた。しかし、ティーオフからショットは右へ左へと曲がってしまった。
「(この前週の)宮崎の試合から、(ショットが)ちょっとずれてきていると感じていました。でも、練習ラウンドでは大丈夫だったので、準備は出来たかなと思ったんですけど……」
大会初日は18時過ぎにホールアウトするとそのまま練習場へ直行。日が暮れるまでショットの修正を試みたが、良い感覚は掴めないまま翌日へ。「(2日目の)2番でバーディが来て、よし!と思ったところで、3番でボギーがきて流れを自分で切らしてしまった。6番では『どこまで飛んだんだろう?』というぐらい左奥にOBを打ってしまいました」
2日間のフェアウェイキープ率は57%。正確なショットが要求される難コースなだけに、この現状では戦えなかった。予選カットラインに4打足りず、5オーバーで予選落ち。
「諦めないことはもちろん大事だったんですけど、どうすることもできないというか、うーん、なんか、もう悲しくなりましたね」
今後は国内ツアーに「また一から出直したい」
それでも、内に秘める闘志に衰えは感じられない。
「努力が足りないです。まだまだこれからかなと思っていますし、このままで終わりたくないです。国内ツアーの前半戦はフル参戦できるので、目標は優勝。この状態だったら無理なので、今回の結果をしっかり受け止めて、また一から出直したいと思います」
今後は、国内ツアーの永久シード獲得を目指す。ただ、たとえ主戦場を国内に移したとしても、子育てとプロゴルファーの両立は簡単ではないとも感じている。
「今週は夫の両親が、先週の九州では私の両親が息子の面倒を見てくれました。シーズンオフの時は練習場に息子も一緒に行き、息子がベビーカーに乗りたがらない時は、夫が抱っこしてくれます。見てくれる人がいるときは遠慮なく甘えることで、やっと試合に臨めていますね」
アメリカでは“お母さんゴルファー”がよりプレーに集中できる環境をサポートするため、子どもを預かるデイケアサービスが設けられ、無料でケアを受けられる。国内ツアーではまだそういった制度はないが、横峯が協会に要望したことで、今年3月に国内で初めてツアーに託児ルームが設けられた。
「ゼロをイチに変えられたと思う。託児ルームができたら、次はベビーシッターさんに頼めるシステムを作る。それも私のゴールの1つです」
アメリカでの経験を日本に還元したい。後輩たちが子育てしながらゴルフを続けられる環境を整えていけるように働きかけていきたい。横峯は、それを実現するためにも「結果」が必要だと感じている。
「これからも発信していきたいですし、発信する力っていうのは、成績を出した時にポーンって影響力が出てくると思う。やっぱり結果を出したいですね」
「楽しかったです!」
米ツアーの産休制度の適用を受け、8月のAIG全英女子オープンの出場資格はある。勝負できる準備が整ったと感じれば、いつでも海外メジャーに挑戦するつもりだ。また、今シーズンから海外メジャーでの獲得ポイントが日本ツアー3日間大会の4倍にあたるルール改正が行われたことも、今後のモチベーションにつながっている。
振り返れば、15年に主戦場をアメリカに移していなかったら、とっくの昔に引退していたかもしれない。
「2009年に日本で賞金女王になった頃は、ゴルフかプライベートのどちらかを選ばなければいけないと思っていました。でもアメリカで仕事と子育てを両立する選手を目の当たりにして『結婚しても、ゴルフを続けられる』ということを知ることができました。(米ツアー参戦時は)燃え尽き症候群になって、ゴルフを嫌になっていた時期もあったんですけど、視野が広がったことで、ゴルフが好きと思えるようになったし。それにアメリカに行かなかったら、トロ(愛犬)とも出会えていないので(笑)」
米女子ツアーで戦い続けた約7年を「楽しかったです!」と笑顔で締めくくった横峯。母となって逞しさを増した彼女の声が、カリフォルニアの輝く太陽の下で響いていた。
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この記事への反応
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若手がどんどん出てくる女子ゴルフ界だけどまだまだ頑張ってほしい。
そして母となっても長くできるってことを見せてほしい。
海外と比べれば落ち着いてプレーできる国内に腰を落ち着ければまだまだ活躍できると思う。 -
子供を産んでもプロゴルファーを続けられる環境の整備が目標で素晴らしい!
日本では未整備と言う事らしいですが、クラブハウス内に託児スペース設けたり、ベビーシッターさん配置したりなんてすぐ出来そうな気もする。
名だたる企業がスポンサーになってる訳だし、女性の社会進出を本気て考えているなら、そのあたりの費用を率先して出すことも大事なんでは? -
非効率的な変則スイングでも若い時は感性と身体能力で結果が出せたが年齢とともに変則スイングのデメリットばかりが大きくなってくる
同世代の上田桃子が効率的な正統派スイングでいまだに一線で活躍しているのとは対照的 -
よく分からないが、あえて出場権を辞退するということは何か意味があるのだろうか。
自身が辞退する事によって他の選手の出場機会を一つでも増やすため?
本当に退路を絶って日本に専念するためのケジメ?
そこの解説が欲しかった。
いづれにせよ応援し期待しています。 -
横峯選手は国内での実績も素晴らしく、アメリカでも7年もの長きにわたり辛抱強くプレイされたことに、驚きにも近い敬意を感じます。
これからは第3章の幕開け。
子育てをしながら30代でも40代でも第一線でプレイできることを証明してほしいと思います。 -
ゴルフが好きなんだなぁ。
実績十分な選手だから、更に盛り上がるだろうし、若手にも良い刺激になる。
力からすれば、まだ何勝かするだろうし、ママさん選手として、応援したい。 -
ひとつの大きな時代を担った事は間違いないです。
お疲れ様。
そしてこれからも頑張って下さい。 -
さくらプロ、ひとまずお疲れ様。
これからは日本ツアーでまた強いさくらを見せてください。
引退しない限り応援しますよ。
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